大阪市立大学 共生社会研究会

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NPOや共生社会についての時評を月2回更新でお送りします!


タイトル カマタウンの野郎ども ―伴走のエスノグラフィ―
著者 佐々木敏明
連載 解説 序章 第一章 第二章 第三章-1 第三章-2 第三章-3 第三章-4 第三章-5 第四章-1 第四章-2

第三章  伴走【その5】

13.平行線

[『暮らし応援室』にFさんが来社 ‘04年11月末]

F(前出)「こんにちは」

相「久しぶりやね」

F「いやあ、いっぺん会いたい思って。昨日地下足袋を買いにカマへ出たんで、佐々木さんとこへ寄ろう思たんやけど、日曜でお休みや思てあきらめた」

相「昨日はお昼から遅くまでここにいたよ。連絡くれればよかったのに」

F「それやったら行けばよかった」

相「T君が別の場所に配置されたんやね」

F「どうにもならんよ彼は。彼のリーダーが言うのは、仕事中タバコを吸いながら作業をしているらしいし、もうあかんよあいつは」

相「先日も、新しい場所で仕事をするには新しい気分を持ってやりやって言うといたんやけど」

F「わしも何度か叱ったけど、あいつはいけん。この前もお前はわしの言うことを馬鹿にしとるんか、と言うと『そうです』なんて抜かしやがった。何を考えとるんか」
  
Fさんは、支援センターの先輩であり、会社のリーダーでもある位置からT君の面倒を見ると意気込んでいた。しかし短期間で初心は消え去った。T君との共生を諦めてしまったというしかない。これまで会社と話し合いをする中で、T君の居場所を変えてみたらどうかという意見があり、F氏がリーダーとなる現場から他所に配置転換を試みようということになった。リーダーが変わることでうまく行くかもしれない。11月はじめT君は新しいスタッフと再度仕事をすることになった。

[『くらし応援室』にT君が来社 ‘04年12月中旬ごろ]

T(前出)「現場が変わりましてん」

相「聞いてるよ。よかったね。ところで作業はどんな感じ?」

T「うまく行ってるよ。リーダーに教えてもらいながら」

相「仲間ともうまくやれそう?」

T「やってますよ。楽しいです。そやけど今の仕事12月中で完了言うてます。来年から仕事あらへんからどうしょうと思うてます」。

 会社からそのことは聞いていた。T君の現場は期間限定の仕事であるうえ、会社は冬場仕事が減少することもあり、T君にとって不安材料になっていた。
 
『B工業』は、野宿者雇用以前から障害者を受け入れてきた経過がある。現場では健常者が障害者をフォローしながら協働で作業することも多く、また、大阪市交通局などの車椅子介助の委託を受けていて、ハンディある人たちへの目線はもともと養われやすい環境にあったと言える。F氏は弱いと考えられる人間には優しいまなざしを持っていた。そんな武勇伝もある(注21)。F氏が感じるT君への嫌悪感とは何だろう。注意をしても自分の意のままにならないためか、リーダー(先輩)としての権威性が保てないからなのか、あるいは始めから仕事仲間としての能力に疑問を持っているためなのか。もしくは自分に不都合なものを排除しようとしているのか。

 

14.「嫌いやけど除けもんにしない」

 例えば3年来の付き合いをするN君のことである。私が請け負った期間限定の公園美化清掃の初期に清掃スタッフとして参加してくれた人だ。‘53年O市生まれの51歳で、友だちの多さと作業を楽しむ遊び心を持っていて’04年6月、『B工業』に紹介した。彼への評価が良いため会社が正職の要請をするのだが、そのたびアルバイトの現状でいいと返答していた。「今さら厚生年金に加入して、お金を取られることなんてごめんだ」と思っているのだ。

[『B工業』の更衣室でN君との会話 V04年初秋と推測]

N「正職になるとアルバイトより賃金が安なるし、会社に対する責任の重さが違ってきますやん。何より堅苦しい」(というのが拒否の理由である)。

相「最低の安定収入が見込まれるよ。保険に加入することで医療費軽減にもなるし身分保障にもなるで」(と一応常識を伝える)

N「この方が気楽でいいですわ」(気にいらないときに何時でも辞められる、というニューアンスを言外に感じる)

 N君とはT君(前出)について会話したこともあったので合わせて以下に記す。

[『B工業』の更衣室でN君との会話。V04年10月下旬と推測]

相「T君についていろいろ言われてるけど」

N「個人的には嫌いです。あんなに喋られてはこっちで離れざるを得ない。そやけどわかってくださいね。同じ仕事仲間として除けもんにはしたらあかんと思ってます。ルールを持ってもらって仲良くしていきたいです」

[『B工業』部長からの電話での会話 V04年12月中旬]

部「Nさんを正職にしようと思ってるんですけど、如何でしょう」

相「いいお話しですけど、彼、また断るんと違いますやろか」

部「障害者のジョブコーチをしてもらおうと思ってるんです。障害者に対する接し方が自然で妥当かなと思ったのです」

相「賛成ですが、彼素直に受けるかな」

部「佐々木さんも賛成してくれはるんならNさんに話していいですね」

相「ありがとうございます。勿論OKです」

[『B工業』事務所階段室にてN君との会話 ′04年12月下旬]

『B工業』の納会時、階段でN君に呼び止められる。

N「障害者の生活相談員(正確には障害者職業生活相談員)になってジョブコーチしてほしいと言われてます。トイレ掃除が中心となるようです」

相「会社からも話しがあったよ。いい話しやね。正職でいいの?」

N「お受けしょうと思てます。給料は安なるかわからんけれど、自分にとって面白そうな感じがして」 

相「N君にピッタリのイメージやね」

N「やってみやんとわからんですけどね(笑う)。頑張ってみますわ」
 
本当のところ私はこれまでと同じように断ったものと思っていたので、少し安心した。N君はこれからより良い仕事を続ける決心をしたのかも知れなかった。・
 N君の変化は、これまで自分が描いていた“自由”からの離脱をはかろうとしたのではなかったろうか。僕との3年間は、可能な限り勝手気ままに生きることが自分の本領だと言っていたN君であったが、どこかで自らの自由のあり方を修正し始めたような気がする。それは、作業上ともに働く障害者たちとの日常的接触の中で、彼の情動を揺さぶったのかもしれない。社会的関りの重要さを意識し始めたかもしれない。単純にその仕事に面白みを感じたのかも知れない。いずれにしても、やる以上その仕事を楽しむことからはじめるN君の、新しい仕事の出発点であると信じたかった。

N君は、既に「障害者職業生活相談員」としての資格を取得したらしい(部長からの報告V05年1月中旬)。

15.お墨付き

T君のことで明確に知らされたことがある。
彼は病んでいるかもしれない。しかし会社の中では明らかに健常者として雇用されている。他方、明らかに認定された障害者たちが雇用されている。彼らはどこかで特別な扱いがある。障害者だけれど「よく働く」、障害者だけれど「がんばり屋だ」というように。
作業現場以外でもそんな風景をよく見ることがある。「それって差別と変らないのではないの」と部長は言う。T君はあらかじめ健常者として入社しているため、普通の人間の癖して「仕事が怠けもんだ」「言う事を聞かない」「だらだらしてる」など罵詈雑言を浴びせられる結果となった。例えばT君が障害者認定という”お墨付き“を胸からぶら下げ雇用されていたならどうであったのか。障害者だけれど「よく働く」人に突然スライドしてしまったのではないか。
私は人への評価のあやうさ、もろさをT君の事例で発見できたことを幸運に思っている。「障害者も健常も皆一緒やん,何でそんな人の噂や悪口言うのん。私とこの会社はそんなん違うよ」と憤っていた部長の言葉に共感する。

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[注21]

F氏の武勇伝:その@F氏が『自立支援センターおおよど』入所の頃、外出先で暴力事件に遭遇。被害者を助けながら犯行者を咎めたところ、いきなりナイフで刺され大怪我で救急搬送される。そのA『B工業』からの帰宅途中、地下鉄階段を上る老女に降下する青年がぶつかり、老女は階段下まで転倒。青年が無言で立ち去ろうとしたためF氏は彼を捕まえ謝らせたが誠意なく、地下鉄職員の要請に発展した。その後F氏は市営地下鉄側から感謝されている。


 

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