大阪市立大学 共生社会研究会

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 トップページ > よみもの > 10月1日第3号  


NPOや共生社会についての時評を月2回更新でお送りします!


タイトル カマタウンの野郎ども ―伴走のエスノグラフィ―
著者 佐々木敏明
連載 解説 序章 第一章 第二章 第三章-1 第三章-2 第三章-3 第三章-4 第三章-5 第四章-1 第四章-2

序章

 かつて私は巡回相談員(注1)として、大阪市内の路上で生活する数多くの野宿者たちに接し,現在も脱野宿のための支援活動をしている。巡回相談では野宿者に「自立支援センター」の開所を説明し、就労を目的とする施設活用を奨めながら各地域の公園や河川敷、駅舎周辺、高速道路橋脚下など、あらゆる「辺界」を入所説明のために繰返し訪ね歩き、入所希望者を三センターのいずれかに案内した。基本的にはフィールドでのアウトリーチに始まり、当事者をセンター入所させるルーティンワークともいえるものであったが、実際は決まりきった相談ばかりではない。この時とばかりに雑多な相談や要望が塁積することもあった。

 中でも健康面での衰弱者や、精神・知的・身体障害などの野宿者には医療的対応が必要であったし、社会保険など受給資格を持ちながら、当人が全く知らないままに長期間野宿していたため、年金受給手続きに忙殺されたこともある。更生、救護施設から脱走、あるいは生活保護の暮らしから再び野宿していく男たちにも個別に対応しなければならなかった。また、仕事は決まりそうだがテントから通勤するわけには行かないというので、釜ヶ崎の簡易宿泊所に事情を伝え、給料日まで前倒しで宿泊を許可してもらうというケースもあった。これらの多くは巡回相談員のルーティンから外れたいわば遺法な行為といえるものだが、当事者の緊急時が、相談員である私の旬の時でもある。“違法行為”(注2)は必要に応じ実行してきた。

 私が遁走する野宿者を意識したのはこの時期であり、野宿者を「遁走を生活習慣とする男たち」と仮定してみることにした。「第一章 遁走」では、巡回相談員であったこの時期の事例から、野宿者やその支援協力者たちとの接点を綴った。

 その後、私は野宿者の就労こそが自立の基本であると考え、本来の施設内相談員(自立支援センターO)に戻り、野宿者入所から就労自立までを個別に関与することになる。巡回相談員として接してきた男たちも相当数入所していて、障害者、アルコール依存者などの雇用問題の難しさなどにぶつかりながら、就労自立者が再び野宿地に戻り、シェルター(注3)利用をし、あるいは更生施設・救護施設に入所する現実に気づかされることになった。「第二章 追走」は、これらの現場から「自立支援センター」という施設に入所した野宿者たちと、巡回からセンター相談員に戻った私(自ら面接した男たちのその後を追体験することになるのだが)との接点を記録した事例である。

 例え仕事を確保し自立退所しても、企業先での環境や条件、人間関係で退所後短期間のうちに退社していくケースが多く、消息は企業あるいは本人からの申告で明らかになる。それでは申告がなければ継続勤務出来ているかというと、こちらは不明瞭で、時間が経過するごとに企業や本人との連絡、情報が取れにくくなる。就労退所し自立していく利用者を持つ施設側の認識に従えば、多くの場合は退社や遁走、消息不明になってしまう。「自立支援センター」の就労退所率(注4)が40%といえど、実質は半数以下になるとみられている。

 私は就労さえ出来れば野宿者問題の半ばは解決できるものと楽観していた。行政や多くの支援者は今もそう信じて疑わない人もいる。私はむしろ、企業や当人たちとの就労後連携が重要だと考え始めた。就労もさることながら就労後に関与する必要性を痛感したのである。この頃、民間企業でありながら非営利で野宿者問題をテーマとする部門を設立したいという会社社長からの要請を幸いに、仕事探し・企業連携・野宿者生活相談のための『くらし応援室』(注5)を企業内に開設し、「自立支援センターO」を退社した。「第三章 伴走」は、就労と生活支援のための『くらし応援室』設立以降のフィールドワークから、野宿者たちの仕事づくりと雇用企業との連携、当事者への暮らしのアドバイスなど、当事者・企業・私のいわば三位一体による協働作業の経過を記録した。

 「第四章 回帰」では、これまでの活動を振り返り、日常を省みながら、今後の支援や野宿者自立へのサポートのあり方を考えてみた。

 本稿は、当事者への支援活動の意義、他分野との協働作業、および野宿者支援の可能性を大きな本旨としている。全章を通じ、レポートの体裁はおおよそ時系列でまとめているが、必要に応じて時間的につながらないエピソードも挿入している。

 次回から第1章「遁走」のスタートにしたい。

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[注]

1.巡回相談員:‘99年後半、大阪市内に第二種福祉事業として3つの「自立支援センター」が設立された。公園・道路・河川敷・橋脚下・地下街・駅舎などで暮らす野宿生活者の自立及び就労を促すための宿泊施設である。3〜6ヶ月の間に就労自立する誓約を負う。巡回相談員は就労意欲のある野宿者と現場で直接面接し、「自立支援センター」への入所につなぐ役割を持つ。大阪市健康福祉課の委託により大阪市生活保護施設連盟が運営主体となり、加盟する福祉法人から巡回相談員を派遣している。このほか医療における無料低額受診の申請業務や、内科・精神科の健康診断の同行、野宿者概数調査・福祉事務所への連絡などが巡回の主たる任務となっている。巡回相談活動は市内全域を現場に持つ。

2.違法行為:2.の作業が巡回相談員のルーティンワークとするなら、これ以外のことはしてはならない、つまり“違法”であると言える。たとえば緊急時の宿泊所の斡旋、就労斡旋、当事者との飲食、当事者への個別ケアなど。

3.シェルター:野宿者の長期滞在を目的とする仮設一時避難所のこと。プレハブ構造で、宿泊棟、共用棟(食堂・休憩所・自炊場・洗面場・洗濯場・シャワー・トイレなど)、管理棟からなる。夕刻に米飯が提供される。入所者は所内の巡回や清掃作業を輪番で行う(日当制)。長居・西成両仮設は閉鎖され、現在大阪城公園内の仮設のみが運営されている。

4.就労退所率:就労退所率が40%を越している「自立支援センターO」の場合、その後は退社していて実質20%前後に落ち、この20%もその後短期の内に不明になったり、再テント化していく可能性が強い。

5.くらし応援室:西成区内にある民間株式会社Nグループの一つ。野宿者支援を目的に‘02年開設。佐々木が担当する(株)Nグループの“非営利”部門。

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