第3回
国勢調査とNPO 2
事業やアドボカシーに活用される統計資料
センサス・トラクトということばをご存知だろうか。
アメリカの国勢調査において、集計された統計を整理する際に用いる、地域的な単位のことである。ひとつひとつの単位は、比較的小さな地域で成り立っている。小さな地域ということを人口でいえば、平均で人口4000人程度、最も少ない場合で1500人、最大で8000人だ。それぞれのセンサス・トラクトは、原則として0001から9999までの4桁の数字で示される。ただし、この4桁の下にさらに2桁の数字がついているところもある。
それぞれのセンサス・トラクトは、住民の人種構成や経済レベルにおいて、同様なパターンがみられる地理的な範囲で設定される。もちろん、人種構成や経済レベルは、中長期的にみれば変化する。したがって、そうした変化に対応して、センサス・トラクトの境界線が変更される。
NPOが事業計画を立てたり、アドボカシー活動を行う際に、このセンサス・トラクトごとの統計資料が重要な役割をはたすことがしばしばある。前述のように、センサス・トラクトは、住民の人種構成や所得水準において、同様なパターンがみられる地理的な範囲で設定される。
例えば、センサス・トラクト0001にはシングルマザーで年収1万5000j以下の低所得の家庭の子どもが多い、という統計がでてきたとしよう。サービス主体のNPOであれば、この統計に基づき、こうした子どもや母親向けの事業を企画、資金や労力の提供を求めるだろう。アドボカシー団体は、託児所の予算増加を行政に求めたりするかもしれない。
国勢調査の結果は、センサス・トラクトだけでなく、郵便番号ごとの地域でも統計が整理、公開されている。私は、サンフランシスコの近郊のオークランドにある日本太平洋資料ネットワーク(JPRN)の事務局長だった1990年代の後半に、オークランドの人種構成や所得水準と金融機関の支店数を比較する調査を行ったことがある。
その結果、郵便番号94603の地域は、人口2万7475人だが、銀行の支店はひとつもなかった。これに対して、郵便番号94611の地域は、人口3万4213人で、銀行の支店が17も存在した。このふたつの地域の人種構成と所得水準をみると、94603の地域は黒人が75%を占め、世帯所得が2万5000j以下の家庭が50%を超えていた。一方、94603の地域は白人の人口が57%にのぼり、世帯所得が2万5000j以下の家庭は16%にすぎない。
アメリカでは、金融機関がマイノリティや低所得の住民が多い地域に支店を置かない傾向があるといわれている。いわゆるレッドライニングである。レッドライニングを禁止する法律は存在するが、それだけでこの悪しき慣行がなくなるわけではない。人権の尊重と企業の社会的責任の重要性を指摘していたJPRNは、こうした調査によりレッドライニングの実態を示し、金融機関に改善を迫ったのである。
もちろん、国勢調査の資料は、さまざまな統計の一部にすぎない。とはいえ、重要なことは、そうした統計が公開され、NPOは、問題の所在をより明確に把握し、必要な対策を事業やアドボカシーに活用していることである。日本の国勢調査やさまざまな統計も、上記のような調査が可能なレベルまで公開され、NPOのサービス事業やアドボカシー活動に活用できるようにされるべきではないだろうか。
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