大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策専攻都市共生社会研究分野

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「アメリカの助成金事情」

大阪市立大学大学院創造都市研究科
教授 柏木宏

 「アメリカには、NPOの活動に多額の助成金を提供する助成財団が多数あり、NPOは経済的な問題なしに活動に専念できる」
  いまから十年ほど前、日本でNPOについて研究しているグループのセミナーに参加したとき、こういう趣旨の発言をした講師がいた。
  NPOにとって、助成財団が打ち出の小槌のように思われていた、ということである。アメリカのNPOセクターにおける助成財団の財政的意義を誇張というより、誤って認識していたための発言に他ならない。
  事実、アメリカのNPOセクター全体の収入構造をみると、事業収入が4割、政府資金が3割なのに対して、寄付は2割にすぎない。なお、その他が約1割ある。ここでいう寄付には、助成財団からの助成金も含まれるが、寄付に占める助成金の割合は、1割にすぎない。したがって、NPOセクターの資金需要に対して、助成財団が応えている割合は、わずか2%ということになる。
  にもかかわらず、アメリカのNPOセクターにとって助成財団は大きな意味をもっている。この逆説的な内容を説明することが、本論の主要な目的である。そのための記述を行う前に、アメリカの助成財団と助成金の概要を説明しておこう。

 

助成財団と助成金

 助成財団といっても、いくつかのタイプにわけることができる。第1は独立財団、第2は企業財団、第3はコミュニティ財団、そして第4に事業財団がある。第1から第3まではNPOに資金提供を主とした財団だが、第4の事業財団は自ら事業を行う割合が大きい。なお、これ以外に、パブリック財団といわれる形態がある。
  第1から第3までの分類は、設立者によって決められる。独立財団は、膨大な富をもつ個人が作るものだ。マイクロソフトの会長が設立した、全米最大の助成財団ビル・アンド・メリンダ・ゲーツ財団(資産240億ドル)は、その一例である。企業財団は、企業が出資して設立するものだ。資産規模でみてアメリカ最大の企業財団は、SBC財団で、資産は5億3400万ドルである。
  コミュニティ財団は、地域のNPO活動の活性化のために作られるもので、地域の個人や企業などが資金を拠出する。なお、パブリック財団は、基金をあまりもたず、随時ファンドレイジングを行い、助成金のための資金を捻出している。資金がなくても設立できる代わりに、助成金の確保が容易でないこともある。
  表1から明らかなように、独立財団は、助成財団の中核的な位置を占めている。だが、助成財団の意義を考えるうえで重要なことは、資産と助成の割合である。企業財団は、資産額が全体の3.3%にすぎないものの、助成額は10%を超え、資産の2割を占めている。これは、企業財団は、巨額の資産をもつのではなく、母体である企業の収益のなかから随時資金が助成財団に提供され、それが助成金としてNPOに提供されるからだ。
  NPOに対する助成財団の助成金は、1990年代の半ば以降、急増している。1975年時点のドル価値に換算した場合、1975年の助成金は2億ドルを若干下回っていた。これが3億ドルに達するには十年かかり、4億ドルになるにはさらに十年を要した。しかし、1997年には5億ドル、1998年には6億ドル、2000年には8億ドル、2001年には9億ドルを突破、10億ドルを超えるのも時間の問題とみられた。しかし、2002年には微減となっている。
  1990年代の半ば以降、助成財団によるNPOへの助成金が急増した最大の理由は、助成財団の資産が増えたためである。独立財団と企業財団は、法律により毎年資産の5%をNPOに助成金として提供しなければならない。1990年代後半には、助成財団が保有する株式の価格が急騰したため、助成金も増えたのである。

 

表1 2001年の助成財団の分類と助成状況

分類 財団の数 割合 資産額 割合 助成額 割合
独立財団 55120 89.2 4035 84.6 237 77.7
企業財団 2170 3.5 156 3.3 33 10.8
コミュニティ財団 602 1.0 303 6.4 24 7.9
事業財団 3918 6.3 274 5.7 11 3.6
合計 61810団体 100% 4768億j 100% 305億j 100%

(出典)助成財団センター

 

助成財団による助成金の重要性

 全米の助成財団がNPOに対して行った助成金の総額は、2001年実績で305億ドルにのぼった。邦貨に換算すると、約3兆4000億円という膨大な金額だ。しかし、本論の最初でも述べたように、助成財団の助成金は、NPOの資金需要の2%程度をまかなうにすぎない。これでは意味がない、と思われるかもしれない。だが、以下のような理由から助成財団の助成金は、NPOにとって重要な財源といえる。
  第一にNPOの経営の特性に関連する理由がある。NPOは、組織の運営や事業の実施にあたり、多くの資金源をもつことが一般的だ。例えば、行政資金といっても、補助金や事業委託、還付金などの種類がある。寄付においても、個人からの寄付だけでなく、企業や団体からのものも少なくない。さらに、利用者から受け取る料金もある。助成財団からの助成金も、こうした多くの資金源のひとつなのである。
  第二に、助成金の提供を受けるNPOの規模に基づくものだ。助成金の多くは、中小規模のNPOに提供されている。通常、1件の助成金の額は、数千ドルから数万ドルである。このため、大きなNPOにとっては、小額すぎる。しかし、年間予算が数万ドルから100万ドル程度までのNPOであれば、価値ある資金となる。
  第三に、助成財団が資金を提供しているNPOの事業分野との関連からいえることがある。ジョンズ・ホプキンス大学の調査によると、アメリカのNPOの規模を被雇用者数からみると、健康医療関係が全体の46.3%を占めている。次いで、教育の21.5%、社会福祉の13.5%、文化芸術の7.3%と続く。一方、表2のように、助成財団から助成金を受けたNPOを事業分野別にみると、トップは、教育の26.8%である。健康医療は20.5%だが、被雇用者数からみる規模と比較すると格段に少ない。一方、人権、まちづくり、ボランティア活動などのNPOは、10.9%を受けている。環境保護も6.2%に達する。行政の資金が入りにくい分野に多くの助成金が投入されていることがわかるだろう。
  第四に、助成金が提供される内容が幅広いことがある。日本では、大半が事業助成だ。アメリカでも事業助成が最も一般的である。しかし、組織開発や運営面への財政支援、不動産購入や基金作りのための支援(キャピタル・キャンペーン)、調査資金の援助、奨学金などさまざまな支援形態が存在する。
  第五に、事業助成の中身が充実していることがある。日本の事業助成の大半は、事業助成において間接費を認めていない。人件費を認めないところもある。従来の公益法人と異なり、NPOは、基金や多額の会費のような固定的な収入源をもたないのが普通だ。にもかかわらず、間接費や人件費を受けられないのであれば、助成金を受ければ受けるだけ、運営は厳しくなってしまう。「NPOをつぶすための助成金」といっても過言ではない。アメリカでは、助成金に間接費や人件費を含めるのは、当然のことと考えられている。
  間接費は、組織の予算規模が大きくなるほど増えるのが普通だ。ある大学では、75%にもなるという。しかし、これは極端な例で、通常、財団が適正とみなす割合は、事業予算の15〜25%だろう。人件費については、制約がないのが普通だ。間接費や人件費は、事業助成の他、組織の基盤強化などの助成にも認められる。だが、キャピタルキャンペーンや物品の購入などに関しては、一般的に認められない。

 

表2 助成財団の助成金を受けたNPOの事業分野別分類

事業分野 金額 割合
文化芸術 20億4797万j 12.2%
教育 44億9254万j 26.8%
環境保護 10億4389万j 6.2%
健康医療 34億3496万j 20.5%
社会福祉 23億1212万j 13.8%
人権など *22億2541万j 13.3%
科学技術 4億8925万j 2.9%
社会科学 3億4840万j 2.1%
宗教 3億5139万j 2.1%
その他 1735万j 0.1%
合計 167億6330万j 100%

(出典)助成財団センター
(注)大手1007助成財団の助成金のうち、1件1万j以上の助成のみの統計、1万j以下は四捨五入
*人権、まちづくり、ボランティア活動など

 

社会変革事業を支援する財団の役割――結びに代えて

 NPOは、行政の下請けとなり、安価に公共サービスを提供するために存在するのではない。社会に存在する問題に、いち早く目を向け、改善案を提示し、必要かつ可能な場合、具体的な改善策を実施することにある。サービスに先立ち、アドボカシーがある、ということもできよう。アドボカシーにより、新たな政策が行政で採用され、その実施をNPOが担う、ということも珍しいことではない。公共政策を先導するNPOというイメージがこれである。
  まちづくりを進めるCDC(地域開発法人)や法律をテコに社会変革をうながす法律擁護教育基金といったタイプのNPOが作られるうえで、助成財団がはたした役割はきわめて大きい。最近では、低所得の労働者の賃金引上げを求める生活給条例制定運動が全米各地に広がっているが、ここでも進歩的な助成財団が貴重な財源を提供している。こうした社会変革事業を支援する助成財団が目立つようになったのは、1960年代以降の現象だ。社会変革を進めるNPOの圧力を受け、助成財団が変わってきたのである。
  日本の助成財団は、伝統的な公益法人制度と一体となっているといえる。しかし、新たな公共サービスを担うNPOが登場してきたことで、その役割も変化せざるをえないだろう。とはいえ、この変化をうながすのは、NPO自身であることも忘れてはならない。


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