大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策専攻都市共生社会研究分野

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「広がりをみせるアメリカの反戦運動」

大阪市立大学大学院創造都市研究科
教授 柏木宏

「ディーン氏、失速」

 1月19日、オハイオ州で、2004年のアメリカ大統領選挙の皮切りとなる、民主党の予備選挙が行われ、当初優位を伝えられたホワード・ディーン氏は、18%とトップのジョン・ケリー氏の38%の半分に満たない3位に止まった。
  最近まで、全米レベルでの知名度は、ゼロに近かったバーモント州の元知事のディーン氏。予備選挙の直前まで、民主党の最有力候補とみられていたのは、ブッシュ政権が進めるイラクへの戦争政策を厳しく批判していたためだといわれていた。
  ディーン氏の退潮は、イラク戦争批判で政権が奪還できない、という認識が民主党内に広がったためである。トップに躍り出たケリー氏は、ベトナム従軍経験を売り物にしていた人物だ。このことは、アメリカがイラク戦争支持に大きく傾いたことを物語る、という論調が多い。
  たしかに、イラク戦争開戦直前にニューヨークや首都ワシントン、サンフランシスコの街を埋め尽くした平和を求める声は聞かれない。フセイン元大統領の拘束は、アメリカ国民に戦勝感を抱かせている。しかし、それはアメリカのすべてではない。

 

軍人とその家族が反戦運動へ

 昨年の10月25日。同時多発テロ事件の直後の混乱のなかで、市民的自由を大幅に制限する、いわゆる愛国者法が成立して2年目の日である。この日、首都ワシントンでは、「イラク占領の終結と米軍の即時撤退」を求める集会が開催された。
  集会の実施にあたり、平和と正義のための連合、ANSWERなどの団体は、全米100ヶ所以上の都市で首都に人々を送る活動に取り組んだ。この結果、主催者側発表で10万人、警察の発表でも5万人が参加するイラク開戦後、全米で最大の大衆行動が実現した。
  10月25日の意義は、参加者の数だけではない。高校生や大学生などの参加が目立った。ANSWERなどの団体は、イラク開戦を阻止できなかったことの反省として、若者の動員が十分できなかったことをあげていた。この日の行動は、この問題を乗り越える第一歩を示したことを意味している。
さらに特筆すべきことは、イラクに派遣された軍人の家族、退役軍人、さらには現役の軍人までもがイラク戦争反対の声をあげたことだ。25日の集会の前夜、ベトナム戦争退席軍人記念碑の前で、前宵祭を行い、イラクからの即時撤兵を訴えた。
軍人とその家族の行動は、イラクにも及んでいる。昨年12月、サンフランシスコにあるグローバル・エクスチェンジは、バグダットの占領監視センターと協力し、イラクに派遣されている米軍の家族やイラクで戦死した米軍の家族らのイラク訪問を実現させた。
米軍の家族らは、統治機構の代表と会談した他、イラクの一般市民から現地の実情を聴取。イラクの人々の多くはフセイン政権の崩壊を歓迎しながらも、米軍の駐留に不満を表明し、この状況が放置された一般市民による米軍への攻撃が懸念されると感じたという。

 

平和を求める労働運動の活動

 イラクでの戦争に反対する動きは、労働運動のなかにも広がりをみせている。アメリカでは、戦争に先立ち、USLAWという労働組合と労働関係者による反戦組織が結成されていた。USLAWは、首都ワシントンで集会が行われる直前の10月23日と24日、シカゴで大会を開催した。
  大会には、3つの全国組織の他、日本の単組に相当するローカル組合60、草の根レベルの労働組合主導による反戦組織10などから、あわせて150人が参加。全米最大のナショナルセンターのAFL-CIOの食品関連労組局の代表は、イラクの人権、労働団体を支援し、戦争を終結させよう、と述べた。
USLAWは、この大会の直前、イラクに代表団を派遣した。代表団は、フセイン政権下で政権に反対する活動を進めてきた民主的労働組合運動や戦争後に作られた失業者組合の関係者と会談。失業率が70%に達し、フセイン政権下と同じ労働者の団結権や争議権が認められない状況が続いていることを説明されたという。
AFL-CIOは、ブッシュ政権に反対している。しかし、その姿勢は、国内政策の優先順位をめぐる批判としてだ。これに対して、USLAWは、戦争政策と福祉削減などの国内政策の問題を関連させながら運動を進めようとしている。

 以上のように、メディアが伝える「ブッシュ政権への強い支持」という現象の背後に、反戦の動きが静かに広がっていることがわかる。この欄の最初に紹介した大統領選挙も、例外ではない。
出口調査によるとケリー候補には、反戦の意思が強い人々が多く投票。また、2位になったジョン・エドワーズ氏に対して、ディーン候補以上の反戦平和主義者のデニス・クシニッチ候補が支持を表明した。
ディーン氏の敗北は、同氏の専売特許だったイラク戦争反対の声が民主党内で受入れられ始めたことを示す兆候かもしれない。もちろん、民主党がイラク戦争反対を前面に打ち出して選挙戦を戦い、ブッシュを追い落とすとは考えにくい。だが、イラク戦争反対の声は、広がり続けていることはたしかである。


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