大阪市立大学大学院創造都市研究科都市政策専攻都市共生社会研究分野

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2007年度 都市共生社会研究分野 第8回 ワークショップ

派遣労働者の実態とその支援活動の現状

中野麻美
2007年6月12日

第1セッションー中野麻美氏から

現在の派遣労働の実態とその問題点を、現場を知る人の実感を込めて、弁護士である中野麻美氏は明瞭に語ってくれた。中野氏の言葉を借りつつ、概略を以下に記すことにする。
まず、低賃金な派遣労働について。
労働者派遣法の創設当時は、労働側優位の職種にのみ派遣労働が許可されていた。しかし、次第に規制緩和が進み、その結果として「金貸しが人貸し」をするような状況が生み出されてしまった。
 日雇い派遣労働の実態調査を行ったことがある。その結果、日雇い派遣労働に従事するのは若年層が多いのだが、ごく普通のサラリーマンが生活補助のために派遣労働をしている場合もかなりある、ということが判明した。日雇い派遣労働は単純な肉体労働がほとんどで、賃金も最低賃金すれすれであるということも確認された。その上、不透明な天引きも当たり前のように行われている。ごく最近、介護事業で世間をにぎわせている某Gグループもそのような事業者のひとつである。一日の賃金から、700円程度も天引きする業者もある。
 これら派遣先(ユーザ企業)は、日雇い派遣労働者を使い捨てできる人であるという感覚が強いのであろう。石綿除去作業等に従事する際に求められる安全対策なども、ほとんど行われていない。
 従事する日雇い派遣労働者の生活環境も、また過酷なものだ。ネットカフェに寝泊まりできるのは良いほうで、24時間営業のファーストフード店で、1杯100円の飲み物を注文して夜を過ごす人も少なくない。こういった人たちを、レストハウスと称する狭い居住空間で、しかも複数で、寝泊りさせ、彼らから不当な家賃を搾り取るという、怪しげな業者さえ存在している。まさに、「人権なき雇用」が生み出した、貧困ビジネスである。
 続いて中野氏は、日雇い労働派遣者である赤木智弘氏が執筆した記事(『論座』2007年6月号)を紹介し、派遣労働者の危機的ともいうべき状況を提示してくれた。赤木氏は記事の中で、自身が陥っている現状を解決するため、革命ではなく、むしろ戦争を希望している、と書く。この記事に関連して、中野氏は雄弁である。彼らは、自分の怒りの矛先をいわゆるヒルズ族に向けることは少ない。むしろ、本来であるならば協同するべき、一般の労働者や公務員といった身近な存在に、彼らの怒りが向けられていくようだ。どうにもならない閉塞感から生まれる、独特の感覚なのかもしれない、と。
 ダンピングされる派遣労働については、次のように警鐘をならす。ダンピングが容易になされる原因の一つに、派遣という形態そのものがもつ問題にある。雇用契約である労働が、派遣という名のもとに、労働ではなく商品として扱われ、商品であれば当然、価格競争にさらされる運命にある。しかし生活の質、生活の保障が約束されなければ、人間にとって適切な労働とは言えないのではないか。そう考えると、派遣労働が認められた時点から、もうすでに労働の商品化が始まっていたといえる。
労働の商品化を阻止するため、そして、派遣労働者が持っている閉塞感を打破するため、過酷な就労環境の実態告発や制度の小さなほころびを繕うだけでは駄目であると、中野氏は強調する。正規労働者自身が、「身銭を切って」「退路を断って」「自分は関係ないと思うことの愚かさを知って」労働のあり方を考え、変えていく必要がある。「こうすればうまくいった」というような具体的な情報を、発信し共有することが重要である。今回のワークショップの終わりに、中野氏が出した結論である。

第2セッションー質疑応答

Q 判例でも直接雇用が主だった時代があったが最近はどうか?
A 裁判官の意識も変わってきている。中立的立場である裁判官ではあるが、最近の規制改革会議の内容(労働の大幅規制緩和)などが政府の立場であるとすると、その内容にあえて背くという関係ではいられないと、(裁判官は)考えるようになるだろう。

Q 派遣労働者の非合法低賃金労働は、全体としてみれば経営にマイナスであると考える企業はないのか?
A 実際に派遣労働者を正規雇用にまで引き上げる企業もある。こういった会社は低賃金による弊害として。仕事の質の低下を見抜くことができる優良な企業といえる。

Q 横領事件をきっかけとして、派遣労働者を正規雇用へ登用した某銀行があったが、このようなことは、経営者側が、正規雇用と非正規雇用の間には能力の差がないと考えているからであると思うか?
A 確かにそうだと思うが、やはりコスト意識があることは事実。

Q 当事者たちの行動はどうなっているのか?
A 少なからず情報を集め、改善運動に参加する者も多い。また新しい形の非正規雇用者も増えているので、これらの者も含めてサポートし、社会運動化することも必要であると考える。現状を改善するための考えとしては現在、既得権益のスクラップアンドビルド方法と、非正規雇用者の底上げ、という考え方があると思うが、今は両方の間を漂流しているのではないか。

第3セッションー院生の意見や感想

・「ここまで来ているのか」というのが、話を聴き終わったときの正直な印象だった。デジタル派遣のことは話題になっているし、正規雇用と非正規雇用の格差が広がっていることも知ってはいた。しかし、それが国の規制緩和政策によって必然的・構造的に起こって来ているものだとは認識できていなかった。
・本来、仕事とは自己実現や幸福の追求、未来への展望をもたらしてくれるもののはずなのに、「人間としての精神を無くさないとできないようなもの」になってしまっている。それは国が推し進めてきた政策の結果であるという事実に愕然とした。「戦争しかない、そこにしか希望を託せない」という31歳のフリーター(『論座』赤木智弘氏)のような閉塞感も頭ごなしに否定はできないと思った。そこにはバブル期を経験したものとバブル崩壊後の世代のどうしようもないギャップを感じる。市場原理主義の台頭はその世代間のギャップが関係しているような気がしてならない。
・中野さんは正規雇用者自らが「身銭を切る」とか「退路を絶つ」という言葉で表現されていたが、それにはとても洗練された「人権感覚」が必要だと思う。第3セッション時に、担当教官が言っていた(非正規派遣労働者にまつわる問題は)「格差ではなく、あってはならない存在を作ってしまっている『人権侵害』」だということをはっきり認識することが、私たちにとってまず大切なことだと思う。そして未来への展望が持てる雇用の実現ということについて、自分たちの問題として考えていきたいと思った。
・正規雇用者においても、悪しきものがよきものを駆逐してしまうことを実感して、自らの賃金抑制をしてまでも非正規雇用者の賃金引上げを要求することを真剣に考えないといけない。そのまま放置したらいずれ自分らの首を絞めることになるのは必至である。


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